2012-08-11

柔らかい個人主義の誕生 消費社会の美学

オイルショック......不況......経済摩擦......。
ここには、1970年代から80年にかけての10年という時間のなかで、大きな「消費社会」へと変わった日本を「現在の条件から論理的に考えられる可能性のひとつが提示」されているものです。
ひとは、「もの」を現実の欲望の満足に供することとはかかわりなく、それを蓄積すること自体を欲してその満足を急ぐのであって、ここに「もの」の人為的な生産といふ仕事が成立することになる。そして、「もの」を消耗する欲望には限界があるが、「もの」を蓄積する欲望には限りがなく、いはんや、それが姿を変へた金銭欲にはとどまるところがない。したがって、それの満足を急ぐ生産にも歯止めがなくなるのであって、まさにこの点に、生産と消費といふ二つの行為の本質的な相違が生まれる、といへよう。生産もまた、「もの」をを消耗して新しい価値を作るといふ点では、じつは消費と同じ構造を持つ行為なのであるが、違ふ点は、それが欲望の直接的な満足といふ自然の限界もってゐないことにある。いはば、生産とは、将来の満足のために現在の満足を先送りする行為であるが、しかし、じっさいには、それはしばしば将来の満足とすら関係なしに、とめどない消耗と価値の再生を行なふことになる。近代文明の危険は、考へてみれば、まさにこの問題にこそ潜んでゐたのであって、物質の大量破壊とむだな商品の蓄積といふ弊害は、消費欲の肥大といふより、むしろ生産技術のひとり歩きから起こった事態であった。あへて逆説をいふなら、今日の物質主義文明の大部分の問題は、直接に快楽主義の産物ではなくて、逆に禁欲的な生産至上主義の産物だといへるであらう(本文より)。


(目次)

第一章
おんりい・いえすたでい’70s ―ある同時代史の試み
一 同時代を書くことの意味
「十年刻みの歴史」/「次は何をすべきか」
二 近代化百年の終り
「黄金の六〇年代」/「不確実性の時代」/縮小した国家のイメージ/大国化の限界/「面白い」国家の終焉/地域の時代
三 集団化社会の変質
職場と家庭の縮小/「生涯」の再発見/高齢化と多様化/青春の変貌/普遍的な不幸の減少/不条理な運命の再発見
四 「誰かであるひと(サムボディー)」の要求
伝統的な個人主義の動揺/「消費」への志向/「趣味」の形成/文化的サーヴィスの興隆/サーヴィス史の第三段階/人間的紐帯の多元化
五 柔軟な個人主義の萌芽
表現する個人/「帰依」と「一貫性」を超えて

第二章
「顔の見える大衆社会」の予兆
一 脱産業化社会の第二段階
人間相互間のゲーム/情緒集約型産業の興隆/年代の質的変化/「脱産業化」概念の両義性/非プログラム的な情報
二 目的探求の社会
福祉行政から文化行政へ/自己探求としての商品開発/生産集団の変化/新しい社交空間
三 「顔の見えない社会」の歴史
「合理システム」への帰依―十七世紀の転換/隣人を容認しない個人/「分相応」の喪失―十九世紀の混乱/「同業組合」復活の夢/淋しい「他人志向」―二十世紀の不安/顔のない「世間」の支配
四 消費文化の時代に向けて
情報を生産する消費の不在/日本的社交集団の機能/社交の復活の条件/社交集団の救済/演技する個人

第三章
消費社会の「自我」形成
一 二つの先入観
快楽主義の悪夢/集団化と無秩序の脅迫
二 消費の概念の昏迷
消費とものの消耗の混同/殺伐たる消費のイメージ
三 欲望の構造
満足を引きのばす欲望/消費と貯蔵/時間の消耗としての消費/生産優位の社会/消費社会の意味
四 消費する自我
自己顕示と消費/他人をうちに含んだ自我/消費の社交性/不安の徴候としての自己顕示
五 大衆の変質
選択に迷ふ大衆/孤立するエリートの終り
六 硬い自我の個人主義
自我以前の自我/満足を先送りする欲望/生産する自我/独善的な自我
七 柔らかい自我の個人主義
もうひとつの自我の可能性/受動性を生む主体/「技術的人間」と「藝術的人間」
八 「無常」の時代の消費
シラーの理想/「一期一会」の消費

解説
中谷 巌

(参考)

山崎正和 Wikipedia

柔らかい個人主義の誕生 中央公論新社

マックス・ヴェーバー Wikipedia

ディヴィッド・リースマン Wikipedia

ダニエル・ベル Wikipedia

カール・レーヴィット Wikipedia

F・L・アレン

東京オリンピック Wikipedia

殖産興業 Wikipedia

富国強兵 Wikipedia

石油危機(オイルショック Wikipedia)

ドル・ショック(ニクソン・ショック Wikipedia)

戦災復興都市計画 Wikipedia

国民総生産 Wikipedia

経済大国 Wikipedia

所得倍増計画 Wikipedia

地方の時代 Wikipedia

日本列島改造論 Wikipedia

肩たたき 日本俗語辞書

核家族化(核家族 Wikipedia)

新興宗教(新宗教 Wikipedia)

アトム化 Weblio

アンドルー・ハッカー

多品種少量生産

ダッコちゃん人形 (ダッコちゃん Wikipedia)

ファミリーレストラン Wikipedia

第一次産業 Wikipedia

第二次産業 Wikipedia

第三次産業 Wikipedia

生涯教育(生涯学習 Wikipedia)

脱産業化(脱工業化社会 Wikipedia)

エミール・デュルケイム Wikipedia

上層中産階級 Weblio

ダンディズム(ダンディ Wikipedia)

茶の湯(茶道 Wikipedia)

わび・さび Wikipedia

いき Wikipedia

消費社会 Wikipedia

ジャン・ボードリヤール Wikipedia

ポトラッチ Wikipedia

マス・メディア(巨大情報媒体) Wikipedia

ホセ・オルテガ・イ・ガセト Wikipedia

R・G・コリングウッド Wikipedia