2012-02-08

建築雑誌2012-02。

津波と建築を関連付けて特集した『建築雑誌』の新刊です
『津波のサイエンス/エンジニアリング』
という
タイトルのついた本号が昨日手元に届きました
という月刊誌は、日本建築学会会員の「会報誌」となっています

津波に対する防波堤となると建築の分野だけでの分析が難解であるという観点から
本号では「土木分野の専門家諸氏が多数」登壇され「異例」の特集記事が
組まれています

「特集前言:津波から建築はどう見えるか」
津波という「自然の脅威」に土木と建築というものがどう向き合っているのか?
よくわかる総論が述べられていますので、少し引用させていただきます。

『建築物は所有で切り分けられた土地のそれぞれに個別に立ち上がり、
しかもその大部分は民間事業である。
とりわけ日本はこの傾向が顕著だ。
私たちの眼は、それゆえ、地表面上の「点」(建物)とその集積(都市や集落)
という見方を宿命付けられてきたように見える。
建築の耐震・震動制御もまた基本的にはこうした前提的枠組みの上に成り立ってきた
のではないか。
私たちの眼にとって3.11の津波が衝撃的であったのは、その被害の甚大さ
だけでなく、むしろ津波が上記の枠組みを攪拌する異様な怪物のように
映ったためかもしれない。津波は海からまず海岸という「線」に到達し、それを乗り越えると
性質を変えつつ「面」を洗い、反射し、重なり、浮き上がらせた建物を瓦礫や自動車とともに
運んで互いに衝突させる。
土木学の分野ではこうした複雑きわまりない現象に対して、主として
「線」、つまり防波堤・防潮堤などを工学技術の対象とする。
これらの構造物の建設はほぼすべてが公共事業であり、それが背後の都市や集落を守る。
むろん限界はあるが、建築学は津波の問題をこの「線」に預けてきたということか。
明治・昭和の三陸大津波の悲惨な経験は、建築学になぜ
大きなインパクトを刻み込まなかったのか。
津波は、いろいろな意味で建築学の眼のありようを問い直す。むろん、地域社会の
側にたってみれば、学問の垣根などに意味はない。
実際、3.11以降、土木分野との連携が欠かせぬことをすぐさま悟った建築専門家は
少なくないだろう。また、一朝にして津波を知った私たちの眼には国土イメージも
様変わりしたが、三陸沿岸はじめ地道な取組みを続けてきた地方から見れば、
私たちの地図が偏っていたということである。
本特集では、土木分野における津波の科学/工学の水準を学びつつ、
建築学がそれをどう受け止め、いかに連携して
社会に向き合うべきかを考えようとした。
東日本大震災の復興計画は出揃ってきたが、まだまだ判断を迫られる課題は多いだろう。
予想される東海・東南海・南海地震への対応も含めて、多様な国土に
人が住みつくための工学的要件をいかに社会が理解していくかは、
今世紀の大きな課題となるだろう。

ところで、本号のタイトルでは「サイエンス」と「エンジニアリング」の間に、
スラッシュを入れた。工学技術は、科学の延長ではないからだ。
高度な計算技術を手にしながらも、不確実性、限界、壊れ方、復元力、コスト、
コミュニケーションといった問題系と無関係に合理性を主張できないのが
工学技術である。その独自の意義を回復することが、技術者の倫理かもしれない。
巻頭座談会をはじめ、本号の各記事もこうした問いかけである。』

(目次)

再建への意志:図面のなかの都市復興

東日本大震災 連載ルポ1 動き出す被災地

東日本大震災 連載ルポ2 仮すまいの姿


特集前言 津波から建築はどう見えるか

《座談会》

津波をめぐる工学の今

海溝型地震発生予測研究と海域観測技術

東北地方太平洋沖地震津波災害の教訓と地域の復興に向けての課題

港湾における津波波力と津波計算

建築物への津波荷重と漂流物影響の予測

《座談会》

津波防災と計画・設計をつなぐ

(参考)

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