2012-02-06

寺田寅彦。漱石、レイリー卿と和魂洋才の物理学

「ねえ君、不思議だと 思いませんか?」

文理に異才を発揮した寺田寅彦
そのひとには
「ふたりの師匠」

いました

ひとりはイギリス・ノーベル賞科学者の「レイリー卿」
もうひとりは日本の小説家・評論家の「夏目漱石」

「空はなぜ青いか」

謎を解いたレイリー卿は私邸を実験室とした「道楽科学者」であったが
寅彦も
「随筆」「俳句」などを発表しながら「音楽」「絵画」などを愉しみ
一方で
「尺八の音響学」や「椿の落下運動」
など
西欧の物理学というレールのうえを歩んできたものにとっては
「意表をつく」
研究・テーマに取り組んでいました

『自分達には日本人の血が流れている。近頃つくずくそれを感じる。
物理学も西洋人の真似をすることはない。
日本人に具合いのいい物理学があるはずだ』
と言い続けた寅彦

その
「和魂洋才」
ともいえる寺田寅彦の生き様と精神が、この本には描かれています

また寅彦は以下の一文(日記)からも
「教育者」としての優れた才ももちあわせていたことがわかります
『Faradayのような人間が最も必要である。大学が事がらを教える所ではなく、
学問のしかたを教え、学問の興味を起こさせる所であればよい。
ほんとうの勉強は卒業後である。
歩き方さえ教えてやれば卒業後にめいめいの行きたい所へ行く。
歩くことを教えないでむやみに重荷ばかり負わせて学生をおしつぶしてしまうはよろしくない。』


(目次)

まえがき

1章
寺田寅彦とふたりの師-漱石とレイリー卿
”殿様科学者”と”高等遊民”
漱石とケルヴィン卿
『吾輩は猫である』の中のケルヴィン卿
寅彦と漱石
寅彦とレイリー
高嶺俊夫と「小レイリー」
レイリーの衣鉢

2章
レイリーと古典物理学-青空の謎から音響学まで
ストークスのデモンストレーション実験
キャヴェンディッシュ研究所の創設
キャヴェンディッシュ研究所長
空はなぜ青いのか?
レイリーの光の散乱理論
分子の実在性
レイリーの『音響理論』
古典物理学とエーテル
レイリーとマイケルソン-モーレの実験

3章
レイリーとノーベル賞-アルゴンの発見と放射理論
帰りなんいざ、田園へ
漱石の大学辞職
寅彦の大学辞職騒ぎ
窒素の密度の謎
アルゴンの発見
レイリーのノーベル賞受賞
王立協会会長
古典物理学を覆う暗雲
寅彦とレイリーの最期

4章
寺田寅彦と古典物理学-尺八から椿の花の落下まで
寅彦の博士学位
日本人の物理学
尺八の音響学
ヴァイオリンの物理学
線香花火の詩と音楽
線香花火の物理学と化学
藤の実が飛び散るメカニズム
漱石の俳句
椿の花の落下
寒月になった寅彦
寅彦の椿の句
理化学研究所と寅彦

5章
寺田寅彦と新しい物理学-X線回析と結晶構造の美
不思議な放射線
X線の正体
X線と万華鏡
ブラッグ条件の美しさ
寅彦のX線結晶学
ブラッグ父子のノーベル賞
科学と「美」
X線とDNA

6章
寺田寅彦と科学随筆-二十世紀物理学の助走
「話の種」
モーズリーの法則と椿の花の落下運動
原子の内部構造
長岡半太郎の土星系原子模型
ボーアの原子論
ノーベル賞の光環
地球物理学
地球の年齢問題
サイエンス・コミュニケーション

7章
寺田寅彦と漱石の面影-別れと”再会”
寺田物理学の特質
漱石との別れ
漱石を偲ぶ歌
漱石との”再会”

年譜

(参考)


寺田寅彦 - 漱石、レイリー卿と和魂洋才の物理学



レイリー卿 Wikipedia

夏目漱石 Wikipedia



(心に残った言葉)

『西洋の学者の堀り散らした跡へはるばる遅ればせに鉱石の
欠けらを捜しに行くもいいが、われわれの足元に埋もれている宝をも忘れてはならない
と思う。
しかしそれを掘り出すには人から笑われ狂人扱いにされる事を
覚悟するだけの勇気が入用である。』


物理学者石原純(いしわらじゅん)のことば
『寺田さんの一生の仕事はいつも自分の最も好むところに向って
勇気づよくなされていたとみなしてもよいと思われるし、
それが異常に困難なものであったとしても、ともかくもそこに
独自の路を拓いて進んだということに対して、多分ある程度の自己満足を
感じておられたことと思う』