2012-05-28

近くの山の木で。

いまから、12年前に出版された「名著
日本各地域で「ちいさな取り組み」ではありますが、すすめられています
しかしながら、日本の林業において「面的」な活動とまでには到達しておらず
いまなお、その問題の根は深いところにあるといえます
海に訊けば
海が痩せ細っているのは
山の問題だという
川に訊けば
川が煌めきをなくしているのは
山の問題だという
では山の問題はどこにあるのだろう

かつての人々は
近くの山の木で家をつくっていた
自然にずうっとそうやってきた
かつて山には
手間をかけて木を育てる人がいた
それを必要とする人々がいたから

この行き来の関係が失われた時
山は手つかずのまま放置され
そして荒れていった

私たちはいま
近くの山の木で家をつくるという
考え方を取り戻そうと思う

それは
豊かに利用できる緑の列島に住む
私たちの自然な姿だから
それは
山に活力と生命力を
与えることを意味するから

まず人と人が連携しよう
そして連鎖した自然に向き合おう
まずそこから始めよう


これは
本書に掲載されている宣言文です

『近くの山の木で家をつくる宣言運動』
という本(2000年11月1日初版)
が発行されてより12年が経過しているということは
冒頭に書きましたが
その後も日本の森林における
「戦後人工的に植林された木が放置された森」
「伐採ののち追植されないままの森」
「すべての木が伐採されてしまう森」
といった森は増え続けていて
「高密度路網」の整備にあってはほとんど手のつけられていない状態です

近年発生する自然災害の「重篤化(土砂災害など)」や
建築物などの「ライフサイクルに伴う二酸化炭素発生」の増大など
このような「森林の荒廃」が要因とみることが
正しいでしょう
しかしなぜ、このような状態が「放置」されたままさらに「悪化」し続けているのでしょう
山をひとくちに「健全な森」にするといってもそこには
「人」と「お金」と「仕事」がなければ、どんな「きれいごと」を並べても
変わってゆかないのです
本書には、水上にある「山の苦境」について
『丹波の森』の
状況をとって、書かれています

天竜杉の産地で山の下草刈りをする老人(2000年8月。本書より)。

樹齢40年の檜を200本伐った。驚いたことには、この価格が1本たったの4000円!それに運搬代その他を入れて全部で8000円かかるという。つまり、1本について4000円の持ち出し(200本なので800,000円の持ち出しだ)である。車が入れる林道筋の木だから、搬出は容易である。必要な諸経費はともかくとして、40年間営々として育てた木が1本4000円とは、あまりにも無残な仕打ちではないか。育てた人にも木に対しても侮辱極まりない。私は腹が立つより情けなくて呆然とした。これでは林業なんて成り立つはずがない。40年もかけて育てた檜の原木を売ると、4000円の持ち出しとは、どこか世の中が狂っているとしか思えない。一般的に生産者が不当に圧迫されている。農作物では生産者の取得は小売価格の2割だという。これもあまりにひどいと思うが、これにならうと、40年生の檜の売値は1本20,000円ということになろう。しかし、わたしたちが家を建てるための市場価格は、とんでもない高価なものである。材木の流通機構がどんなものか私は知らないが、どこかで法外なもうけをする仕掛けになっているにちがいない。身近な山の木で家を建てようという運動には大賛成だ。しかし、木材の生産者が納得する価格で、しかも「外材よりも安い木材を供給する流通機構」を作らなければ、この運動は挫折するだろう。営々として植林し、今伐期に来ている膨大な植林は泣いている。私も泣きたい思いだ。

同上写真。
日本の国土面積の「66パーセント」を占める
約2,500万ヘクタール(うち約1,000万ヘクタールが人工林で
その割合は約40%≒四国の5個分)の森林で程度こそは異なりますが
同じ様な状態があるといいます

※10,000,000×0.01÷18,800=5.32個。

各地方自治体などで様々な助成制度や取組みがなされていますが
「山と町」「生産者と消費者」「流通の川上と川下」
そして
各地の運動を結び、つなぐ「ネットワーク」の大きなちからが
「近くの山の木」
によって
「山」も「人」も「家」も本来あるべき「健全なすがた」を取り戻して
生きていくことができるのではないでしょうか
宣言文にある
「まず人と人が連携」するということからはじまり
そして
一時の流行に惑わされない
自覚した消費者の台頭が
この運動に生命を与えてくれるもとのと信じて


(補足)

2000年4月に発足した「NPO法人緑の列島ネットワーク」は
その活動趣旨に賛同する人を募りました
その数はなんと
422人にものぼりました

この422人の方々は「呼びかけ人」と称され
2000年11月に発刊された本書巻末にその名を連ねています
また
2001年元旦の朝日新聞には2ページにわたる「意見広告」が掲載されました
『近くの山の木で家をつくる運動宣言』という本は
初版2万部を完売し
この本を通しての呼びかけにこたえた2300人の名前で山並みをデザインしています
このアピールにはかなりのインパクトがあり
その後「草の根運動」として各地域の山へと飛び火していきました
この運動以後
環境問題としての「山」への意識はぐっと身近なものへとなり
消費者への啓蒙活動も活発になったのです
しかし
これらの運動も継続的かつ持久的な
「水上(山)から水下(町)への公平な流通」
あってこそはじめて実効性のある運動となるのです


(目次)

第一章 緑の列島 その歴史と現状
[その一]
緑に覆わた列島と、漆黒の宇宙に光輝く列島と......。
[その二]
私たちは、緑の列島に、木の家を建てて、住んできました。
[その三]
私たちは、近くの山の恵みを活かして、地域らしい表情を持った家を建ててきました。
[その四]
この国に、「消費革命」の波が押し寄せました。その前と後では、地域の風景まで一変してしまいました。
[その五]
自然素材から「新建材」へ。「新建材」から、再び自然素材へ。
[その六]
ラワンはタガログ語で「豊かな森」を意味します。この国の建築ラッシュが彼の国の森を奪いました。
[その七]
この国の森は、過去幾度もの危機に見舞われました。人工林への転換が、やがて漢方薬的な効果を生み出しました。
[その八]
緑の列島に四度目の危機が訪れました。伐採ではなく、放置されることによる深刻な危機です。

第二章 近くの山から地球環境を考える
[その一]
町の中には川が流れています。川を遡ると、そこに山があります。
[その二]
人工林も自然災害を未然に防ぎ、渇水を緩和し、生長しながら二酸化炭素を吸収します。
[その三]
里山は、小動物や昆虫たちの住まいであり、人と自然との環境共生を示す生命ワールドでした。
[その四]
地球は、土の中に微生物が棲む星です。生ゴミを腐植土に変えて、町に緑を。
[その五]
砂漠化する海を救うために、漁師が山に木を植え始めました。
[その六]
地球温暖化をもたらす排気ガスを抑制するため、大きな建築用材は、遠くから運ばない。
[その七]
木は「地上資源」の代表です。循環型社会とは、すでに地上にあるものだけで賄うことをいいます。
[その八]
太陽エネルギーや森林資源など、再生可能な技術利用が始まりました。


第三章 木で家を建てる・木の家に住まう
[その一]
木の家の住み心地がいいのは、木や土や紙や草の持つ調湿性によります。
[その二]
木の持つ性質を解いていくと、意外なチカラが秘められていることが分かります
[その三]
木は、反る・割れる・狂う・伸び縮みするという。この難点をどう考えればいいのでしょうか?
[その四]
木は鉄に比べると弱い、という説があります。本当でしょうか?
[その五]
木は燃えるから火に弱い、という説があります。本当でしょうか?
[その六]
木は白蟻など虫がついたり、腐ったりします。これは避けがたいことでしょうか?
[その七]
木の家は地震に弱い、という説があります。本当でしょうか?
[その八]
伝統的構法の知恵を活かす研究や家づくりの試みが、今、各地で起こされています。
[その九]
木造建築本来の理を守りながら、構法技術の発展を促すことが求められています。


第四章 森の経営と求められる木材質基準

[その一]
山持ちと称えられたけれど、今では山が重荷になった。櫛の歯が欠けるように、山からまた人が出ていった。
[その二]
急峻な山から伐採する日本の山と、野菜を収穫するように伐採するフィンランドの森。
[その三]
きちっと経営されているフィンランドの森と、「経営がない」といわれる日本の山とは、何が違うのか。
[その四]
一口に「放置された日本の山」といっても、「優等生の山」も、「劣等生の山」もあります。
[その五]
山は、木材に対する旧来の認識を考え、求められる木材質に応えましょう。
[その六]
これまでの木材業界の旧弊な体質と、改革刷新の方向について考えました。
[その七]
イギリスでも、国産材は苦境に立っていました。先入観を覆す材の性能評価が、変化を呼び込みました。
[その八]
「良質材」にこだわる一番玉林業から、「カスケード利用」への大転換をはかりましょう。
[その九]
すでに山が過去の話と考えていることも、視点をかえれば生き返ります。


[その十]

天然乾燥であれ、人工乾燥であれ、木材の乾燥には、時間とコストがかかります。
[その十一]
ヤング係数を測ることは、設計の自由度と可能性を高める目安となります。

第五章 近くの山の木で家をつくる運動へ

[その一]
川上の山と、川下の町がスクラムを組んで、新しい社会システムを生み出す段階に入りました。
[その二]
山は市場原理だけでは計れない。山と町の本意を探ればみえてくるものがあります。
[その三]
共生・循環・参加の原理に立つと、それぞれの役割と存在性が浮かび上がります。
[その四]
設計にあたっては、何を大切にするかが問題です。考え方を変えれば、みえてくることが沢山あります。
[その五]
地域の建築家は、近くの山の木を活かし、その地域らしい住まいの設計に力を注ぐべきです。
[その六]
良い木造住宅を造るには、大工の存在が問題です。手の価値の復権が、大工を蘇らせ、後継者を育てます。
[その七]
町の工務店による実効性の高い取り組みが、山側の変化を呼び覚まします。
[その八]
無数の「小さな関係」を基礎とするネットワークが、この運動の無限の可能性を拓きます。
[その九]
各ネットの地域の受け皿となるのは地域会です。共同してアピールを行ったり、いろいろな活動を進めます。


[その十]

一時の流行に惑わされない、自覚した消費者の台頭が、この運動に生命を与えます。

[その十一]
自然界の物質循環の環の中に参加し、自然の恵みを享受しよう。



(参考)