2012-05-22

都市住宅クロニクル Ⅰ

1966~2006の「都市・建築・住宅」などについて雑誌等に発表されたコラムなどが
「2冊(Ⅰ・Ⅱ)の本」として纏められています
本書「Ⅰ」については
1966~1986の「20年間」のその記録
この本には「建築家」の設計による「都市住宅」が、多数収められていますが
建築評論家であり「都市住宅」「GA HOUSES」などの編集長でもあった
植田実(うえだ・まこと)氏は本書の編纂にあたり
『私(植田氏)が探し求めている(あるいは、「いた」)のはいわば一軒の住宅』
であり
『建築家の考え方(思想)』と『(棲み手が)使い、住むこと』
が連動している「空間」が
『おもしろい』
と感じる
そして
「建築専門書」にあるような学術的なものの「集積」ではなくて
『街や建築や住まいを語る本』
というありかたが「本書」であり、また、植田氏の40年間であったといいます

500ページ弱の本書「Ⅰ」で都市に「棲む」ということが
いったいどういうことなのか
それについて
建築家はどう「考え」、「かたち」にし、「棲みついて」いったのか
ボクがいちばん「らしい」と思った「モノ」を抜粋しておきます
◇◇◇
大阪と東京を行き来していたが、家族と東京定住を決意する。郊外団地などを見てまわったが納得できず、どうしても都心に自分の家をつくろうと土地を探して、青山で見つけたのが20.56平方メートル(6.22坪)の敷地。表通りから裏に抜ける路地の入口に当たる三角形状で、建坪は11.80平方メートル(3.57坪)、地下に書斎(設計アトリエでもあり数人の所員が製図板を並べる)、一階に車寄せとポーチ、外階段を数段上がったところに二階入口ドアがある。入ってさらに三段上がって台所兼食事室兼リビング、三階に浴室・洗面・便所、四階に夫婦寝室、五階に子供部屋と屋上テラス。延床面積65.05平方メートル(19.68坪)を六層に構成した家が空に伸び上がっている。外も内も、まるごとコンクリート打ち放しの家である。開口部にスティールサッシュと6.8ミリ厚の網入りガラスが使われているだけで、二階台所の流しを嵌め込んだ食卓兼用のカウンターの大理石が唯一例外ともいえる素材。この大理石と四階主寝室の大きな鏡がコンクリートの家のなかでかえって宝石を嵌め込んだかのようにすばらしく輝いて見える。この家は、「自分の家を持つ」ことに関わる複雑多岐な虚偽に無頓着なところから始まり、そのまま進行中である。空しいスイートホームの夢を粉砕するタワーであり、率直きわまる打ち放しコンクリートである。それはなんと個性と快適さに満たされていることか。最小限の台所のカウンターは訪問客にとっても最高の居場所であるし、手摺りのない階段はいまや楽しい多層ベンチと化しつつある。あらためて表通りに出て眺めてみると、地上に接するように顔を出した地下室の窓、ポーチと階段をゆるやかにしっかりと囲う壁、屋上テラスの壁を少し下ろした四階の庇、これらからなる全体のプロポーションの美しさ。高度の完成と生き生きとした進行が重なり表れている。
*総床面積65㎡(約20坪) 竣工1967年 総工費 約240万円
(1967年5月号「太陽」収録)
これが、『棲む人(家族達)=設計者(建築家)=仕事場(生産場)』という建築
◇◇◇


(目次)

Ⅰ 住宅の発見
❏住宅診断❏
林雅子「三国邸」/生田勉「基一の家」/吉村順三「池田山の家」/鈴木恂「JOH」/西原清之・弘子自邸「ミニマムハウス」/西澤文隆(坂倉準三建築研究所)「西阪邸」/藤木忠善自邸「すまい/サニーボックス」/宮脇檀建築研究室「もうびぃでぃっく」/RIA建築綜合研究所「中野邸」/東孝光自邸「塔の家」/RAS建築研究所「いと」
❏住宅設計の原則とその変容❏
❏シトローエン2CVの彼方に❏
❏都市への視線❏
構造から構成へえ/遺棄された都市体験の反復/都市計画専門書の読み方/庭師としての建築家/生活・生業の表現/都市における記憶と記録
❏イメージとしての独立住宅❏
総特集「カタログ「都市住宅」3」序/木製獣魚・石化草木/「双対」の保守と前衛/書物の巨大化家具化/建築計画における新たな博物学/手づくり建築のイコノロジー

Ⅱ 三つの王冠
❏プランへの還元❏
白澤宏規の二つの住宅
❏「向こうの世界」❏
渡辺豊和自邸を中心に
❏断片性の統合❏
黒川哲郎の「デザイン」
❏双面神 毛綱モン太❏
❏幻視者 磯崎新
❏切断面による連続の達成❏
池原義郎「所沢聖地霊園」
❏原さんの家❏
❏ブックレビュー❏
建築と音楽のあいだで/「場所」のアメリカ的特性/全巻の完結を待ちながら/酒場でロースを
❏建築家案内❏
原広司/中込清/毛綱毅曠/室伏次郎/山本理顕/富永譲/渡辺豊和/海老原鋭二/象設計集団/吉田保夫

Ⅲ 都市生活のイメージ
❏建築家の主張する家❏
「光と空間の広がり」を求めて
❏「洋館」再発見❏
❏「平凡パンチ」建築コラム❏
東京タワー/東孝光「聖書キリスト教会会堂」/丹下健三「赤坂プリンスホテル新館」/室伏次郎「千石の家」/同潤会アパート/高松伸「ARK」/戦後闇市の空間/スーパーポテト「PASHU」/鈴木了二「成城ファースト」/第一工房「マガジンハウス」/北岡節男「BASCO」/磯崎新「つくばセンタービル」/東京都庭園美術館/吉田保夫「フレディズ・キッチン」/阿部勤「高樹邸」/早川邦彦「中澤ホール」
❏HOUSING❏
「アサヒグラフ」住宅コラム
ヨーロッパみやげの住所表示版/自転車の置き場所/父と息子の部屋/菜園わきのハンドメイドハウス/門から玄関ホールまで/靴を脱がない部屋/屋根裏部屋の再発見/窓から空間へ/清家清「タタミ」白書/東孝光の「食卓」/石と土の飾り/斎藤義の「居間」/空に開かれた箱/緑の外壁仕上げ/緒方理一郎と熊本の町並み/「ドライ」志向/「黒」の構成/書斎だけの家/見えない家、見えない部屋/街と外壁のデザイン/三次元空間へ/室伏次郎の「タタミ」/パーゴラをのせた家/二軒で一軒/壁と色彩の迷路/向かい合う部屋/嘘のペントハウス/「白」の構成/庇とベンチ/ヒル・トップ・ビレッジ/二十四時間建築/セラミックハウス/楕円の部屋/矛盾の部屋/吉村篤一と京都の町屋/不可解への方法/目神山の家々/神戸の生き物たち/生物の場をみつめて/北国の住宅
❏現代都市空間の庭❏
ポストモダニズムと庭園の将来
❏磯崎新「還元」への旅❏
MUSEUM-1/CONVENTION CENTER/CLINIC/CLUB HOUSE
❏マルチェロ・モランディーニ❏
ある建築学的デザイナーの仕事
❏パリの近代建築❏

Ⅳ 小さな部屋
❏陰画としてのヴィラ❏
藤井博巳「宮島邸」
❏こたつとヴィラ❏
内田繁+スタジオ80
❏住宅を解体していく住宅群❏
❏物質の先の建築的風景❏
安藤忠雄小論
❏内部に折り込まれる都市❏
ジョージ・オーウェル抜き書き集
❏建築時評❏
一九八五年の建築/槇文彦「スパイラル」/ミノル・ヤマサキの死/藤井博巳「芝浦工業大学第二体育館」/香山壽夫「林原邸」/毛綱毅曠「釧路市立東中学校」/原広司「田崎広助美術館」/象設計集団+計画技術研究所「用賀プロムナード」/磯崎新「パラディアム」/仙田満「浜松科学館」/建築この一年
❏ゼノンの矢のように❏
相田武文「積木の家」
❏隠された十字架❏
安藤忠雄「六甲の教会」
❏宇宙模型としての釧路❏
毛綱毅曠の作品と方法
❏吉阪隆正集4『住居の形態』解説❏

(参考)