2012-09-20

古レールの駅 デザイン図鑑。

人知れず、眼にもとまらず、そのライン
ひっそり消えようとしている
古レールの家(えきしゃ)
(by:たかさん)
本書表紙にも「アイコン」化されている「上家」。古レール(古軌条)の使われかたを眺めているだけでも飽きのこない、美しいシルエットをそれは見せてくれています。子供のころ、駅のホームで電車の到着を待つその眼に、あのボルト(リベット)の紋様(みたいに見えていたのですが)がきらきらと光り輝くのが映っていました。どこか「陰翳」のあるような、あの「上家」、ときおり「フッ」と通り過ぎる風とともになんとも不思議な気配をその頬に伝えてくれました。そんな上家もときとともに消えつつ、「ここ」にもツルピカなものへと替わってしまう、(スクラップ・アンド・ビルド的な)時代の「流れ」のようなモノが押し寄せてきて、気が付けば昨日まであったあの風景はもう見られなくなったな、と、気がつく少年の頃のボクがそこに佇んでいるのでした。著者でもあり建築家の岸本章さんは、30数年のあいだ、「上家」の記録・撮影として携わってこられたのです。その岸本さんが「まえがき」で、いまなぜ、駅の「上家」を記録・撮影(保存)しておかなければならないのかを端的に記されていますので、その部分を抜粋して、ここにご紹介させていただくことにします。

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駅のホームにある上家の構造物の多くは、古レールの再利用によって造られている。これは明治半ばから昭和40(1965)年代まで造られ続けたが、現在でもまだ多くが残っている。しかし鉄道の高架化や駅のバリアフリー化、鉄道そのものの廃止などにより、日々急速に減少している。これら古レール造の上家は規格化されたものではなく、様々なパターンがあり、ひとつひとつデザインされていた痕跡がある。装飾だけのための材料はなく、無駄は許されない中、それでもなお美しくあろうとするデザイン行為が存在し、個人的な好みが反映されている。積雪や風害に対しての配慮など、条件が同じところでは同じ断面として標準化することが可能だが、古レールの上家には様々なバリエーションが存在する。このバリエーションは、いったいどのようにして生まれたのだろうか。これは構造的な合理性や、ローコスト化の追求というより、感覚的なで選択されていたらしい。もちろん、コストは決められているのだが、その範囲内で設計者は自由にデザインを楽しんでいたといえる。今、古レール造上家を調査することは、デザイナーとは呼ばれなかった人々のデザイン行為を発掘し記録することと、近代化遺産としての記録を残すという点で価値があると考える。今記録しなくては、永遠に葬り去られる造形行為である。
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表紙になっている「JR西日本・山陽本線 下関駅」
山口県下関市(2007年1月撮影、柱:2本合わせ、接合:リベット)

(目次)

まえがき

上家の起源

レールの経歴

古レール造の草創期

古レールの構成

ディテール

デザインの痕跡

施工の現場

再利用の価値

所在と衰退

調査の方法

❐リスト1❐
片流れ
山型1本脚
山型2本脚
谷型1本脚
谷型2本脚
曲面2本脚
W型2本脚
横断型

❐リスト2❐
駅舎上家
古レールの駅舎
古レールの跨線橋
古レールの人道橋
道路橋、信号扱所、新幹線用施設
駅名標、給水塔、架線柱、車止め

年 表

駅名索引

あとがき

参考文献


(参考)