2012-10-07

住む。43

使い慣れた台所、心地いい食事室。
旬の食材でこしらえる料理。
誠実に食材をつくる現場。
どれも、手と時間、思いがそこにある。
ていねいに使い込まれた生活道具が物語ること。
最新設備など何も無い、独自の美意識が貫かれた台所。
拾った廃材などで自分たちの手でこしらえたもの。
そうして
使い込むうちに、日々だんだんと自分の台所になる。
新しく買ったものは何もない。
今あるものを、どう使うかを考えることを愉しむ。

家は「食寝処」。
働きやすい台所、
居心地のいい食堂。
そして
手触りのいい食卓。
お気に入りの椅子を用意して、
笑顔と鼻歌まじりで愉しく料理をつくる場所。
そんな台所では
散らかすことなど気にはならない。

時間と、
料理と、
集まる人と、
食べるシーンにあわせてつくる台所が居心地もいいのだ。

決して「仕込み」は急がずに、
食材の「切り方」や「見た目」を変えて、
少しだけ「手」を入れたものをつくることが、
「食べ心地」も変えてゆく。
些細だけれども大切なこと。

自分のスタイルにあった鍋を選び、
そして
使いこなす。
できた料理を盛り付ける「器」のことも考えて。


『住む。43』では、人の暮らしにとっていちばん大切な「食べる」ということを身近な材料として捉え直しています。「自分らしい食空間」とはいったいどういうものなのか。「食べる」ということだけの機能をもった台所や食事室ではない「空間の居心地」の具合、また、エネルギーのことも考えてつくられていた昔の台所にあった「自給型の台所」と「保存の知恵」、そして、都市農業のもつ「弱み」など。また、特別企画として、その地方の自然を感じながら「携帯の電波も届かない山のなかのものづくり」に取り組む、地方廃校をファクトリーへとリノベートした建築のことや、宮城県登米市登米町の「手のひらに太陽の家」プロジェクトのこと、など『いまあるものを、いかに次代に継承し活用し住みこんでゆくのか?』という「活きた実作」も掲載されていて、空き家再生などへの「テクスト」としても活用できそうな、そんな一冊に仕上がっています。

(目次)

特集

「食」の周辺

布作家・松澤紀美子の今あるものを活かした、二つの台所。
写真・飯貝拓司

建築家・中村好文の働きやすい台所、居心地のいい食堂。
写真・雨宮秀也 文・田川公子

料理家・長尾智子の「おいしさ」のつくりかた。
写真・合田昌弘 文・成合明子

「循環の家」で学ぶ昔ながらの知恵と技
写真・波周平 文・杉江あこ

東京農民のモノサシ
写真と文・瀬戸山玄

コラム
書評エッセイ『おべんとうの時間』
文・木村衣有子
「食べる行為が、地域を豊かにする」
インタビュー・四井真治
日々の昼ごはん絵日記
絵・雨宮ゆか

小さな町の、小さな酒蔵。
鳥取県八頭郡桜町 写真・波周平 文・藤田千恵子

発酵新聞
発酵の知恵と技を伝えるために/いわし、さば、ぶり/発酵王国・秋田
農家に教わる、土と発酵/地元産の経木で包む、納豆/美味しい魚醤カタログ

特別企画
ものつくる若者がいる、小さな村。
岡山県加賀郡 写真・青木倫紀 文・田川公子

連載
Made in Poetry ウィーン、旧市街の小路にて 詩・長田 弘
新・暮らしの絵日記 こうなっちゃった 絵と文・大橋 歩
どこかにある 掃除を重ねた幾星霜 文・原研哉
僕の生活散歩 海の向こうから 文と絵・三谷龍二
家をつくるなら、近くの山の木で 子供たちに伝えたい、森につながる「木の家」。
写真・山田新治郎 設計・日影良孝
手仕事を聞く 珪藻土コンロ 写真・池内功和
名前のない道 慈悲 文・赤木明登
エネルギー探偵の時事談義 固定価格全量買い取り制度 文・槌屋治紀
センス・オブ・プロポーション 夏の忘備録 その二 文・畦上圭子
風土倶楽部のおすそわけ モズク 文・朝田くに子 写真・鈴木亮
前川秀樹の物語集 飛び礫
sumu square
次号予告

(参考)