2012-03-14

建築雑誌2012―03。

建築雑誌3月号の表紙
『北海道南西沖地震』『阪神・淡路大震災』『新潟中越地震』『東日本大震災』

各々の地震発生直後からの経過とその社会変化

縦軸に「箇所・戸・世帯」、横軸に「タイムライン(日、月、年)」
として表したグラフが掲載されています


前の「グラフ」は
水色(網掛)で示した部分は「仮設住宅の着工(・撤去)」の戸数
赤線については「仮設住宅入居世帯」の世帯数
薄桃色(網掛)は「避難所」の数

それぞれあらわしています

これをみると明らかに今回の「東日本大震災」では
被災者がまず生活の立て直しを図るために必要となる
仮設住宅の建設

遅れていることが見て取れるのです

これ(遅れ)はなぜか
日本という国家社会の「復元=回復力」の脆弱性との関連性
本号・建築雑誌3月号での特集はこの点を
検証しています

特集前書では災害といういものの位置付けを
「社会が生み出す現象」でありそれは「人がすまないところ」にはおきない
社会の有りようが異なればそこでおこる「災害」の規模や様相も変わっていくものだ
と説明しています
それは
「時間の進行とともに継起的に変化し、長期的に拡大する」社会の脆弱性に
依りはかられる概念でもあるのです

本号の特集タイトルは「東日本大震災1周年リジリエント・ソサエティ」
社会がそなえる「しなやかな復元=回復力(resilience;リジリエンス)」というものさしが
その社会がもつ「脆弱性(概念)」というかたちとして
浮かび上がってくるのです
また
復興とは単に災害直前の社会状態に戻ることばかりをいうのではなく
「次なる平衡状態(さまざまな社会条件のバランス=つりあいがとれた)」の社会への
変化・変革をとげることではないのか
という問題提起もなされています

そのなかでも
「リジリエント・ソサエティ―東日本大震災を踏まえて」
という
座談会(隈研吾×佐土原聡×中島正愛×藤井聡×布野修司)を
とても興味深く読みました
それは
『首都圏におけるエネルギー外部依存と、エネルギー消費のリスクの顕在化』(佐土原)
であり
『日本では地元部材を使用せず、東京発の使いやすい工業製品によりシステマティック
に全国どこでも同じようなものがつくられていくなか(中略)、政府の動きは遅く東京発・
中央政府発のマスタープランは出ていません。つまりシステムが機能不全(中略)それ
を受け、トップダウンに代わるボトムアップ型の動きが顕在化』(隈)
しているのです。
『日本の近代化が、ある意味では東北をテコに進められたこと』(布野)
が露わになって
『そこを認識しないと復興の話はできない』(同)
『誰のための復興支援なのか、復興計画からおちこぼれていく集団を対象』(同)
とするのか
『自己責任でバラック的なものを建てて暮らしを確保した後に計画があるべき』(同)
それすらもできないで手を拱いているわが国家社会は
『日本という国家が脆弱』(藤井)
であり
『復旧・復興の取組みの遅さと予算規模の小ささ』(同)
であって
『最も議論すべきことは政府の遅さ』(同)
であると。
『第二次大戦の戦後復興は計画もなしに生き残った人がバラックを建て、生命力を頼りに
なんとかする、といものでした。(中略)今はそれすらもさせないという状況です。
現地からは政府の決定がないためバラックを建てられないという話を聞きます(中略)
地べたにこそ庶民のパワーがある』(同)
『東日本大震災ではパラダイムシフトが問われています。だからこそまずは
バラックを建てて原点に戻って、どんな街にするかを議論すべき』(布野)
『「創造的復興」と政府が言ったことが、迅速性を阻んでいると思います。そうではなくて
元に戻すなかでアイデアを注ぎ込めるだけ注ぎ込め』(藤井)そして東北地方は
『モダンの都市ではありません。漁村や農村、つまりふるさと』(同)
『菅直人さんがおっしゃっていた方針は、(中略)モダナイズするビジョン(中略)
そうではなく自衛隊方式(破壊が起きたらとにかく復旧)で地域の生業を戻すべき(中略)
つまり「ふるさと再生」』(同)なのです。
また
『多くの国民が、既存の枠組みでの復旧はよくないと感じて』(佐土原)おり
『エネルギーの問題は明らかなのでスマートシティのような提案なら間違いがない』(同)
と。しかし
『器のイメージがないままエネルギーや環境の問題がひとり歩き』(同)
していることへの警鐘を鳴らしています
そこには本来の
『場所ごとに違った提案』(隈)が必要であり『人口設定』(布野)に配慮する必要性が
まったくといっていいほど無視されているからにほかならないためです
また
『治癒力』
という観点から現在の日本社会をみるとそこには
『政府自身がナショナルの使い方をわかっていない』(隈)
という問題があり、それ故に
『グローバリーゼーションがナショナルの脆弱化を招き、リジリエンス、とりわけ
現今の復旧迅速性を低下』(藤井)
させ
『ナショナルの重要性を再認識』(同)することが『今後の超巨大リスク』(同)への唯一抵抗できる
手がかりになるといいます
そしていまの政府のリジリエンスについて
『ナショナルを上手に使えていないのでNPO・NGOレベルのことしかできて』(同)
おらず、もし自民党保守の政権であった場合を例として
『3~4月で復興予算を20~30兆円出せた可能性もあり』(同)
と考察しています
いずれにせよ
『原発事故以来、都市の中に自立的なエネルギーを組み込み』(佐土原)
『地域の材料、人的資源と密着した仕組みの構築』(隈)
を多少時間がかかってもつくりあげて
『ホントに治したいならすぐ病院に連れていける(主旨)』(藤井)
迅速な「生きた」社会とならなければならないと思うのです
そして
『分散型国土の形成』(藤井)
への着手と
『産業配置』(布野)
そして
『金融・不動産への依存体質からの脱却』(隈)
から
『(○○流域系といったような)大きな自然のフローに基づく改善』(同)
をすすめていくなかで
『財源や人的資源などをしっかり循環させていくこと』(佐土原)
が重要であり今後
『生態学の知見を取り入れ、地域に根ざした多機能性をいかに発揮させるか』

日本社会のリジリエント・ソサエティを高める社会へと変わっていくことの一歩であると
おもいます

(目次)

連載
再建への意志:図面のなかの都市復興
室崎益輝

連載
東日本大震災[連続ルポ1]動き出す被災地
鈴木孝男

連載
東日本大震災[連続ルポ2]仮すまいの姿
辺見美津夫+阿部直人+三瓶一壽

特別対談
東日本大震災一周年を迎えて
佐藤直良×和田章


特集
東日本大震災1周年
リジリエント・ソサエティ

特集前言
リジリエンスというメッセージ


第1部
リジリエント・ソサエティとは
座談会
リジリエント・ソサエティ―東日本大震災を踏まえて
隈研吾×佐土原聡×中島正愛×藤井聡×布野修司

災害の脆弱性とリジリエンス・パラダイム―社会学の視点から
浦野正樹

脆弱性研究から考える社会のリジリエンス
島田周平

「リジリエント」な社会とは―発達心理学の視点から
小花・ライト・尚子


第2部
地域再生の姿―震災から1年
公開パネルディスカッション
窪田亜矢×越村俊一×姥浦道生×伊坂善明×三輪諭×長坂泰之


第3部
リジリエンスからみた災害復興の諸相
北海道奥尻島の津波災害からの復興―高台移転の現在
南慎一

移動する人々と地域の再生―インドネシア・アチェ州
山本博之

復興まちづくりと自力仮設―阪神・淡路大震災の経験
塩崎賢明

復興とお金―災害復興における物保険の役割
坪川博彰

9.11からのニューヨーク復興
青山公三

復興の時間―驚異的なスピード感:2008年汶川地震からの復興
加藤孝明

資料編
復興タイムラインにみるリジリエント・ソサエティ
近畿大学建築学部 寺川研究室

編集後記




(参考)

JA84

建築雑誌2012―02