2012-10-25

建築雑誌2012―10。

明治以降、
建築構造物の近代的な耐震技術・制度は、
常に実際の被害事例(大震災など)を教訓として発達してきました。
1978年、宮城県沖地震を契機として1981年に施行されたいわゆる新耐震基準
1995年、兵庫県南部地震を受けて評価と改正が行われ、免震・制振などの
新技術の導入も進んでいました。
こうして「成熟」を迎えつつあった「耐震」に対して2011年の東北地方大西洋沖地震は
どのようなインパクトをもたらしたのでしょうか。
千年に一度といわれる超巨大地震でしたが、建築物の振動という観点からは
どのような地震であったのでしょうか。
そして、いま専門家たちはどのような視野と視座から、どこに問題を見定め、
今後の方向性をどう探りつつあるのかを本号で検証されています。
(「特集前言」より引用)
「耐震のあゆみ」という記事(「建築雑誌」会誌編集委員会作成)のなかに「わが国の耐震制度の発展」に関する年表があります。ここでは「日本での主な地震」の発生と、それにあわせて地震に対する「技術の動向」そして「基準(法制化など)」の制定、日本建築学会の「規準・指針」などが時系列に沿って表記されています。これをみると、私たちがもつ技術力はいかに「自然の力」を凌駕することができないのか、を如実に教えてくれているように思います。
主だった「地震」とそれに対応するようにできた「耐震規準」、「技術動向等」を以下に列記しておきます。

1891年 濃尾地震(M8.0)
1896年 明治三陸沖地震(M8.5)
津波の被害大
1915年 佐野利器「家屋耐震構造要梗」発表
1924年市街地建築物法改正
耐震計算の義務化(水平震度0.1)、構造部材の場合法の強化
1923年 大正関東地震(M7.9)
RC造の耐震性の高さ、特に耐震壁の耐震性が立証される
1927~1936年 剛柔論争
真島健三郎、佐野利器、武藤清、棚橋諒による『建築雑誌』を舞台とした論争
1933年 昭和三陸沖地震(M8.1)
1934年 室戸台風
終局強度型設計体系への指向につながる
1944年 昭和東南海地震(M7.9)
1945年 第二次世界大戦集結
1948年 日本建築規格建築3001号「建築物の構造計算」(JES3001)
水平震度0.2、長期・短期許容応力度の設定
1946年 昭和南海地震(M8.0)
1948年 福井地震(M7.1)
震度Ⅶが設けられる
1950年 建築基準法制定同年、「建築士法」制定。設計者の役割と責任を明文化
確認申請の導入(設計者への責任制度への移行)、構造規定は物法およびJES3001を踏襲
1963年 建築基準法改正(1964年改正)
高容積地区制度の導入及び高さ制限の廃止、超高層建築物の大臣認定制度の導入物
1964年 新潟地震(M7.5)
液状化の危険性を露呈、強震計による初の加速度記録
1968年 霞が関ビル竣工
1968年 十勝沖地震(M7.9)
RC構造物柱のせん断強度・変形性能の不足による被害大
1970年代 時刻歴応答解析の実用化
1970年 建築基準法・施行令改正(1971年施行)
柱の許容せん断耐力計算式、せん断補強筋量の規定
1975年 大分県中部地震(M6.4)
1978年 伊豆大島近海地震(M7.0)
1978年 宮城県沖地震(M7.4)
ピロティ建築物・ねじれによる被害、造成地・ライフライン・非構造部材の被害
1980年代 免震構造の実用化
1980年 建築基準法施行令改正(1981年施行)
◆新耐震設計法◆
1983年 日本海中部地震(M7.7)
1990年代 設計用模擬地震動による検証
1993年 釧路沖地震(M7.5)
1993年 北海道南西沖地震(M7.8)
1995年 兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)(M7.3)
旧耐震規準建築物の被害大、土木構造物の被害
1995年「建築物の耐震改修の促進に関する法律」制定
1998年 建築基準法改正(2000年施行)
性能規定、風荷重改正、超高層建築物規定(告示模擬地震動の規定)
2000年代 サイト波(設計用模擬地震動)による検証
2003年 十勝沖地震(M8.0)
長周期地震動が社会的関心に
2004年 新潟県中越地震(M6.8)
山古志村など土砂災害による家屋の倒壊
2005年 耐震強度偽装事件
2006年 建築基準法改正(2007年施行)
耐震検証の厳格化、適合性判定機関新設、申請の厳格化
2007年 新潟県中越沖地震(M6.8)
2008年 岩手宮城内陸地震(M7.2)
2010年 長周期地震動パブリックコメント
2011年 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)(M9.0)

年表をみてわかることは、たった「120年」のあいだに、数十回における大地震による災害とそれを経験してきた建築社会がある、ということです。そのなかには「耐震強度偽装事件」のような人為的なものも含まれていますが、凡そのところ、自然災害によるものとなっています。「耐震技術」の進歩と種々の「技術革新」も行われて、耐震というものへの「達成感・成熟感」がないわけでもありません。しかし、昨年発生した「東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)」では「津波ビル」や「防波堤」など悉くその自然の力のまえには不完全なものとして私たちの目に映りました。いままた、「巨大地震」の発生が囁かれている現在、これまでの耐震技術を見直して「整理・拡張・展開、あるいは転換を図る契機」としなければならないとおもいます。本号の特集記事『耐震の今:成熟から拡張へ』のなかで「耐震基準と3.11」という記事があります。ここに今後の課題としなければならない内容が詳らかにされていますので、少し、抜粋しておきたいと思います。
◇◇◇◇◇
(建築基準法施行令の)改正以来30年が経過した新耐震基準は、最初の15年については1995年兵庫県南部地震の被害調査からその挙動がおおむね確認され、必要な告示改正などが行われてきた。しかしながら、それ以降の15年については、3.11が必ずしも最大級の入力地震動ではなかったことから、兵庫県南部地震以降に普及してきた、耐震、免震、制振、耐震改修等に関するさまざまな構造技術や関連する技術基準は、まだ地震の経験によってその技術内容が十分に検証されたとは言い難い。さらに、兵庫県南部地震以降に普及してきた技術に一貫構造計算プログラムを利用した設計が挙げられる。これは、解析モデルや解析上の仮定等について設計者の適切な判断が求められるが、このような技術と人の関係についても、その検証は今後の課題であろう。
◇◇◇◇◇

「構造部+非構造部」が、人の生命を守ってくれるということ。


(目次)

《以下、特集部分のみ掲載》

特集
耐震の今:成熟から拡張へ

特集前言
社会的課題としての耐震―進路を導く現状認識を

耐震のあゆみ
会誌編集委員会

巻頭座談会
巨大地震に耐震は機能したか
塩原等×西山均×目黒公郎×源栄正人

第1部
耐震の今と3.11
地震・地震動はどこまでわかっていたか
大野晋
鉄筋コンクリート建物の地震被害と耐震性能の現状
壁谷澤寿海
鉄骨造建物の耐震安全性の現状
緑川光正
免震・制振建築物の安全性の現状
齊藤大樹
木造建築の耐震性
大橋好光
基礎構造の耐震・液状化対策
中井正一
耐震改修促進法に基づく取組みの現状
前田亮
耐震基準と3.11
福山洋
コラム
計測震度と建物被害
境有紀
アンケートから見た耐震技術者の意識:3.11をどうとらえてか
小林正人+永野正行
コラム
グローバリゼーション時代の構造エンジニア
金田充弘

第2部
これからの耐震
超高層建物に求められる耐震性能
北村晴幸
高レベル地震動と耐震設計
林康裕
非構造部材の落下事故の解消に向けて―単なる耐震から真の安全安心へ
川口健一
昇降機システムの耐震安全性
藤田聡
建物内の耐震化に向けて(家具・什器、設備)
金子美香
耐震補強の有効性と今後
田中礼治
都市・社会における「耐震」
廣井悠

巻末座談会
建築の耐震に期待すること
池田浩敬×佐土原聡×深澤義和×福和伸夫

(参考)

建築雑誌

taka_raba_ko 建築雑誌2012-07。(動く建築。災害の間に。)

taka_raba_ko 建築雑誌2012-03。(東日本大震災一周年リジリエント・ソサエティ。)