2012-06-21

都市デザイン 後藤新平とは何か。

都市計画は、白紙に絵を描くのではなく
現に人が住み、働くまちを
生活や産業を維持しながら改造していく宿命をもっている
『後藤新平の都市デザイン論』
水沢藩(現・岩手県奥州市)の医家に生まれた後藤新平は
福島県の須賀川医学校で医学を学び
藩校に赴任してきたや安場保和に見出されて
1880年に23歳で愛知県病院院長兼愛知医学校校長に就任
その後、内務省衛生局、台湾民政局、満鉄初代総裁などを経て
1920年東京市長に就任腐敗した市政の刷新を行いました
1923年に発生した関東大震災直後より
帝都復興のための大規模な復興計画を立案していった
政界引退後も
東京放送局(現NHK)初代総裁、少年団(ボーイスカウト)総長などを歴任し
普通選挙制度の導入、政治の倫理化などを
全国に訴え遊説していきました
最晩年は
二度の脳溢血発作をおしながら厳寒のソ連へ訪問し
日ソ友好のためにとスターリンと会談した
1929年、遊説へと向かう汽車のなかで三度目の発作をおこして
京都で死去されました

後藤新平は政治家として数々の著作・論文・講演などを著しています
本書はなかでも「自治」「公共」という概念から纏められていますが
その奥底には若き時代に医学者として学んだ
「生物学的原理」
というものを多分に含んだ思想・思索がなされているといえます
最後にその思想を著すいくつかのコトバをあげておきたいと思います


◇◇◇
帝都復興その事は、ただ形式の復興に止まらず、また国民精神の復興を必要といたします。震災はわれ人生に災いであったが、災いであって、災いに終わるものであるか、あるいはこれを転じて福音となして幸いとなすべきものであるかに帰着するのです。都市というものは最初は人間の足で往復する程度を標準として開け、次には馬の足で開け、次には鉄路、鉄道、次には電力によって開けるものです。そして次第に大きくなる。かくしてふさわしいオルガニゼーション、すなわち組織編成というものが出てきて、都市は一個の有機体を作る。都市計画は都市が地獄となるか、極楽となるかの岐路に今立っていると申してもよい。当局者の無理解、国民の無知というものを、理解に導くのが極楽を作ることになる。かつて、ビーアド博士が私に教えてくれたが、都市は、四つの敵と闘わなければならない。すなわち疫病、無知、貧困、無慈悲である。
◇◇◇


ティッカー電信機」による電報の送受信に気送管を用いたり
「発電水力調査」を行なって、将来の電力需要の劇的増加による送電の安定化を予見したり
電話度数制・自動式電話の採用による待ち時間の解消をはかり
「世界運輸交通大幹線の実現」へむけての鉄道の広軌化を推進する
など
後藤新平が実現しようとして取り組みながらも失敗したこれらの事業は
その後、実現したものが多いのです
このような後藤新平の先見性は一部「構想」として未だ実現されていないという
現在の政治家たちには、このような
『そこに住むものの生活や産業を守る』
という
先見性は果たしてあるといえるのでしょうか


(目次)

「シリーズ 後藤新平とは何か―自治・公共・共生・平和」発刊によせて
〈序〉 日本近代都市計画の父

Ⅰ 後藤新平のことば

Ⅱ 後藤新平「都市デザイン」を読む―識者からのコメント

後藤新平の都市論―四つの視点
明治大学大学院教授 青山佾
後藤新平の「ウルバニズム」
法政大学教授 陣内秀信
都市衛生と文化
青山学院大学教授 鈴木博之
後藤新平の公の視点
工学院大学教授 藤森照信

Ⅲ 台湾・満州の都市デザイン

後藤新平の台湾ランドスケープ・デザイン
田中重光
後藤新平と満鉄が造った都市
西澤泰彦
コラム 日本の上下水道・衛生工学の父、バルトン
正三角形の謎―旧大社駅

Ⅳ 後藤新平の都市デザイン論

都市計画と自治の精神(一九二一年)
一 都市と精神的要素
二 自治は本能にある力
三 個人自治と団体自治
四 都市計画の三大項目
五 大便および小便問題
六 学問の総合と市民の協力が必要
七 ウェルズの未来都市論
八 都市における自然な生活
九 都市計画と予見
十 撫順と労働者の住宅
十一 純日本の民本主義
コラム 都市研究会と『都市公論』

東京市政要綱(一九二一年)
第一 序論 
第二  新事業の概目
第三 財政の現況
第四 本案の実行要件
コラム 東京自治会館
後藤邸の洋館とレーモンド

帝都復興の議(一九二三年)
コラム 復興小学校と小公園―佐野利器と後藤新平
同潤会アパート

帝都復興とは何ぞや(一九二四年)

復興の過去、現在および将来(一九二四年)
山本首相の大決心
内閣親任の二要件
刹那主義の反対論
大阪市に比較して
江戸っ子気質の発揮
文化のバロメーター
コラム 隅田川の復興橋梁と太田圓三
ああ、東京市全面積の五分の一が無租置とは!

都市計画と地方自治という曼荼羅(一九二五年)
一 都市生活の科学的攻究
二 自治本能の倫理的発達
三 帝都大震災と復興問題
四 当座勘定に囚われるな
コラム 失敗は予見の裏返し

〈解説〉 後藤新平・都市論の系譜―青山佾


解題



(参考)

後藤新平 Wikipedia

安場保和 Wikipedia

ビアード 後藤新平ゆかりの人々より

南満州鉄道 Wikipedia

バルトン 日本下水文化研究会

アントニン・レーモンド

同潤会アパート

佐野利器 Wikipedia

太田圓三 Wikipedia