宮本常一生誕105年(1907/08/01)の本年
初文庫化となりました「宮本民俗学」の一書です
日本の民衆はもと一般に非常に貧しかった
しかし貧しいにもかかわらず、それをそれほど苦にしなかった
村の人たちの協同によって
いざというときには支えてくれるものがあったからで
その協同の力を生み出していったのが
いろいろの慣習であった
慣習は法律でつくられたものではなく
人が共同して生きていくために、自然的に考えだした人間の知恵であり
しかもそれを持ちつたえて来たものであった
そうした慣習や行事は、時にはたいへん大切にされることが
あるかと思うと、時にはお粗末にされ
またこれを消してしまおうとする努力の払われることもあるが
生活の中にしみこんでいるものとして
日常のなんでもない行為や物の考え方の中に
生きていることが多い
それが時にはわれわれの生活文化を守り
発展させるためのエネルギーにもなる
ほんとの生産的なエネルギーというものは命令されて出て来るものではない
「民俗のふるさと」というのは民俗を保持伝承して来た世界という意味に
とっていただきたい
民俗というものはどういう社会に保持されて来たかということを
考えてみたかったのである
ここには
日本津々浦々をめぐり宮本常一が見聞きしてきた
「民俗」
が
なまなましく描かれているのです
(目次)
第1章 都会の中の田舎
1 東京の田舎者
お国はどちら/言葉はふるさとの手形
2 ふるさとの殻
生国意識/人国記ばやり/東京の人
3 盆がえり・正月がえり
五島の盆・下北の盆/ヤブ入りと鍋借り/旧暦から新暦
4 県人会
東京へ住みつく人/学寮/県人会/郷人会
5 地元の者と他所者
東京のなかの村/ベッドタウン発生/月見のモラル
6 市民意識の発生
古い町の秩序/町の自治
7 市民の祭り
祭りとお城/祇園祭り/堺の夜市/長崎の祭り
第2章 町づくり
1 町の芽
山の中の町/商人の役目/賃貸し屋あれこれ
2 商人町のおこり
乞食の世界/落伍者の群/落伍者が商人になった
3 都城づくり
都は物のあつまるところ/都の人あつめ/河原者
4 城下町づくり
武士の好む町/江戸の町/城下町の住民/商人の出身地
5 宿場町
荷物輸送/旅人と荷継ぎ/駄賃付け/陸の港
6 港町
船着場/港々に女あり/港町の性格
7 門前町
伊勢の御師の町/町衆の合議制/檀那場と門前町
8 町のしくみ
同業相集う/職業の変遷/株仲間
第3章 村と村
1 ムラの成りたち
条里制とムラ/垣内のムラ/名田のムラ/親方のいないムラ
2 ムラの格式
ムラの格式/ムラとムラの争い/ムラの格式の上下
3 賤民のムラ
死穢の思想/念仏聖/さげすまれる職業
4 僻地の村
僻地に住む人の劣等感/都会人の優越感/馬鹿村話
5 境争い
境界不明/入会地/飛地の整理
6 血のつながりと村連合
嫁をやりとりする村/見知らぬ在所へ嫁にいく/通婚と村連合
7 村の窓をひらく
神社中心の村連合/寺中心の村連合/村と村をつなぐ信仰集団/共通感情をもとめて
第4章 村の生活
1 人は群れて住む
一戸だけの島/外敵を防ぐために/散って住む場合
2 村落共同体
共同作業/休み/共同体くずれる
3 親方子方の村
親方の家/子方の独立/人口減少
4 村の結束ゆるむ
産児制限の意味/二、三男の行くえ/分家
5 村八分
権利の主張/村ハチブの流行/村ハチブの効果
6 村結合から人の結合へ
いろいろの講/親方どり/共感と結合
第5章 村から町へ
1 群れの絆
世間体/ムラの生活の拘束/立身出世/故郷はついてまわる
2 群からはなれる
親村・枝村/政治の外へ/出稼ぎ・離村
3 古いものと新しいものの場
古い秩序の意義/日本の都市/都市人口と農村人口
4 古い民族と新しい生活
農村の解体/古さと新しさ/農村国家の近代化
あとがき
解説
宮本常一略年譜
(参考)