一日一題禿筆を呵し、百日百題凡書成る
書成って再閲又三閲
瓦礫の文章菲才を恥ず
自ら「結網学人(けつもうがくじん)」と名乗る
牧野富太郎の詩です
「昭和21年8月17日より稿し初め、一日に必ず一題を草し、これを百日欠かさず連綿として続け、終に百日目に百題を了えた(昭和28年2月)。」
本随筆を書き始めたとき、牧野富太郎はすでに84歳という年齢に達していました。牧野は独学で学んだ「植物学」を植物分類学というものへとつき進めてゆきます。本書ではそういった分類学の世界とは少し趣きの異なった『植物名の誤認・誤用が指摘される対象についての名実考的論考』が展開されています。本書解説(大場秀章)で「名実考の危うさ」について牧野富太郎の「いいたかったこと」が次のように書かれています。
『漢名は中国の名だから日本の植物をわざわざ漢字で表記する必要はなく、一切をカナで書けばそれでなんら差し支えないということだった。牧野は習慣のように、植物名に漢字を用いるのは時代遅れであり、「東方日出でてなお灯を燃やす愚を演じては物笑いだ」といい、さらに「自分の国での立派な名がありながら他人の国の字でそれを呼ぶとはまことに見下げた見識であり、この旧態然たる陋習を株守している人々が世間に多く」、これでは決して文化的または科学的な行き方とはいえまいといい切る。牧野の随筆の面白さのひとつは、表現の急速な、かつなりふり構わぬエスカレートぶりにあるが、本書もそうした「牧野ぶり」は随所で遺憾なく発揮されている。』
また、牧野富太郎の「植物学」とその「煌き」について考察が為されています。
『牧野の著述は植物を植物学の視点だけからではなく、あらゆる視点からとらえるものになっている。だから、植物の種一つ一つにたいして多様なアプローチを採っていることが多い。この立場を貫徹すれば、ツバキ学、アジサイ学など、植物の種数だけ学問は存在することになろう。こうした立場からの植物学はアプローチのちがいにより牧野植物学とか三好植物学などと、研究者名を冠して呼ぶことができるだろう。牧野植物学の特色を知ろうとすれば、、牧野富太郎が書いたものを直接読むほかない。本書を読んで改めて感じるのは、学問における強烈な個性の輝きは時代とともに薄くなっていることである。それに拍車をかけているのが、学問自体が、個人の研究というよりは組織の研究になり、没個性化が進んでいることである。そうした傾向は今後ますます強くなっていくであろう。』
牧野富太郎。
ことし、生誕150年(1862.05.22-1957.01.18)を迎えています
ことし、生誕150年(1862.05.22-1957.01.18)を迎えています
(目次)
序文に代う
001馬鈴薯とジャガイモ
002百合とユリ
003キャベツと甘藍
004藤とフジ
005ヤマユリ
006アケビと[#「くさかんむり/開」、86-12]
007アカザとシロザ
008キツネノヘダマ
009紀州高野山の蛇柳
010無花果の果
011イチョウの精虫
012茶樹の花序
013二十四歳のシーボルト画像
014サルオガセ
015毒麦
016馬糞蕈
017昔の草餅、今の草餅
018ハナタデ
019イヌタデ
020ボントクタデ
021婆羅門参
022茶の銘玉露の由来
023御会式桜
024贋の菩提樹
025小野蘭山先生の髑髏
026秋海棠
027不許葷酒入山門
028日本で最大の南天材
029屋根の棟の一八
030ワルナスビ
031カナメゾツネ
032茱萸(しゅゆ)とグミ
033アサガオと桔梗
034ヒルガオとコヒルガオ
035ハマユウの語源
036バショウと芭蕉
037オトヒメカラカサ
038西瓜―徳川時代から明治時代にかけて
039ギョリュウ
040万葉歌のイチシ
041万葉歌のツチハリ
042万葉歌のナワノリ
043蓬とヨモギ
044於多福グルミ
045栗とクリ
046アスナロノヒジキ
047キノコの川村博士逝く
048日本の植物名の呼び方・書き方
049オトコラン
050中国の椿の字、日本の椿の字
051ノイバラの実、営実
052マコモの中でもアヤメ咲く
053マクワウリの記
054新称天蓋瓜
055センジュガンピの語源
056片葉のアシ
057高野の万年草
058コンブとワカメ
059『草木図説』のサワアザミとマアザミ
060ムクゲとアサガオ
061[#「肄のへん+欠」、第3水準1-86-31]冬とフキ
062薯蕷とヤマノイモ
063ニギリダケ
064パンヤ
065黄櫨、櫨、ハゼノキ
066ワスレナグサと甘草
067根笹
068菖蒲とセキショウ
069海藻ミルの食べ方
070楓とモミジ
071[#「くさかんむり/惠」、第3水準1-91-24]蘭と[#「くさかんむり/惠」、第3水準1-91-24]
072製紙用ガンピ二種
073インゲンマメ
074ナガイモとヤマノイモ
075ヒマワリ
076シュロと椶櫚
077蜜柑の毛、バナナの皮
078梨、苹果(りんご)、胡瓜、西瓜等の子房
079グミの実
080三波丁子
081サネカズラ
082桜桃
083種子から生えた孟宗竹
084孟宗竹の中国名
085紫陽花とアジサイ、燕子花とカキツバタ
086楡とニレ
087シソのタネ、エゴマのタネ
088麝香草の香い
089狐の剃刀
090ハマカンゾウ
091イタヤカデ
092三度グリ、シバグリ、カチグリ、ハコグリ
093朝鮮のワングルとカンエンガヤツリ
094無憂花
095アオツヅラフジ
096ゴンズイ
097辛夷とコブシ、木蘭とモクレン
098万年芝
099オリーブとホルトガル
100冬の美観ユズリハ
解説 自然を師に自学自修を貫いた碩学の輝き(大場秀章)
索引(植物名索引/人名索引/書名・雑誌名索引)
※スケッチは「青空文庫」より。
(参考)