こよなく愛し、
人々の心まで耕し、
緑の木々を茂らせ、
花々を咲かせた
人々の心まで耕し、
緑の木々を茂らせ、
花々を咲かせた
ひとりの作家が導く世界がここにあります
労資の争いで世の中が騒然とし、人心が「けわしく」なっている時代(第一次世界大戦が終わり、資本主義の発達とともに「階級闘争」が激しくなっていった)に社会問題に対して人一倍強い関心をもっていたこの作家が、いったい、どうしてこんな「のんびりした園芸家の話」を書く気になったのだろうか。(カレル・チャペックは)プラーグ大学で哲学を専攻し、ジャーナリストになり、劇作家、市立劇場の文芸部長をつとめ、演出をやり、小説を書き、童話を書き、旅行記を書き、その文壇、劇壇、ジャーナリズムの方面での仕事は活発で、多彩だった。趣味も多方面で、写真をやり、絵をかき、犬を飼い、昆虫採集をやり、幼虫の飼育までやっている。(この)本を読むと「二八〇種の植物」が、チェコでは、太陽と水と牛糞と化学肥料だけで、何の造作もなくスクスク育っているかのごとき印象をうける。おそらくこれは気候と風土の相違なのだろう。(チェコの)夏は札幌より暑く、冬は寒い、雨量は約三分の一くらいしかない。雨量の多い日本では、ガラスの下でなければとうてい花を見られないような植物が、雨ざらしの「露地」で無造作に栽培できる。園芸家のよろこびは、単に美しい花を咲かせるための労働と、そのむくいだけにあるのではなく、四季の作業をとおして「自然の美しさ」に触れることができる点にあるのだろう。古来、花を詩題にした詩人は大勢いたが、「土に親しむ園芸家」およびマニアの「よろこびと悩み」を、これほど詩情にあふれた「軽妙洒脱な文章」で、たのしく書いた詩人を知らない(解説より抜粋)。
「ヒト」は同じものを視ていても、その感じ方(受け方)によってずいぶんと、その方向性が変わってしまうということがあります。それは「なにかをつくる」という「創作的な活動」であったり、「育てる」といった部分での「ハナシ」として顕著なのだとおもいます。そのような「ものの考え方」について、カレル・チャペックは「雨が降る」という現象をとらまえてこう書いています。『雨が降ると、「庭」に雨が降っている、と思う。日がさしても、たださしているのではない、「庭」にさしているのだ。日がかくれると、「庭」がねむって、今日一日のつかれをやすめるんだ、と思ってほっとする。』これが、園芸家の視たヒトツの「情景と考え方」なんですね。そしてそういった「視点」は、「経験と、環境と、自然の条件から生まれ、やむにやまれぬ一つの情熱」となって誕生してきます。
そんな「視点」をもった園芸家の「12ヶ月」は、こうです。
◇◇◇◇◇
▲一月は「天候の手入れ」する月。
▲二月も「天候の手入れ」する月。
▲三月は「春のしたく」する月
▲四月は「移植」する月。
▲五月は「中耕と天地返し、定植と剪定」する月。
▲六月は「草刈り」する月。
▲七月は「芽接ぎ」する月。
▲八月は魔法の花園をあとにして「避暑にでかけようと」する月。
▲九月は「二度目の開花を」する月。
▲十月は「地下の芽が動き、ふくらんだ芽がひそかにのびはじめる」月。
▲十一月は「大地を掘る」月。
▲十二月は「庭をながめる、そして土をほぐしやわらかに」する月。
こうしてみると「園芸家」の12ヶ月は
休む「暇(いとま)」もないほど忙しいのだ。
※イラスト:ヨゼフ・チャペック(本書挿画より)
◇◇◇◇◇
かつて大地主に、アメリカの大富豪が言った、
「おたくの庭のようなこういうイギリス芝が、どうしたらつくれるか、
おしえてくだすったら、お望みの額をいくらでもお払いしますがなあ」
するとイギリスの地主の答はこうだった、
「それは、ごくかんたんです。
土をよく深く耕すんです。
水はけのいい、肥えた土でなくっちゃいけません。
その土をテーブルのように平らにして、
芝の種をまいて、ローラーでていねいに土をおさえつけるんです。
そして毎日水をやるんです。
芝がはえてきたら、毎週、草刈り機で刈って、
刈り取った芝を箒で掃いて、ローラーで芝をおさえるんです。
毎日、水をかけて湿らせるんです。
スプリンクラーで灌水するなり、スプレーするなりして、
それを三〇〇年おつづけになると、わたしんとこと
同じような、いい芝生ができます」
芝の「ハナシ」だけ、ではないように......おもいます。
(目次)
庭をつくるには
園芸家になるには
1月の園芸家 種
2月の園芸家 花つくりのコツ
3月の園芸家 芽
4月の園芸家 労働の日
5月の園芸家 恵みの雨
6月の園芸家 野菜つくり
7月の園芸家 植物学の一章
8月の園芸家 シャボテンつくり
9月の園芸家 土
10月の園芸家 秋のうつくしさについて
11月の園芸家 準備
12月の園芸家 園芸家の生涯について
訳注
解説 小松太郎
挿画 ヨゼフ・チャペック
(参考)