2012-08-29

TOKYO 0円 ハウス 0円生活。

専門家の特別なデザインよりも、人間が元から持っている本能的な生活デザインの方が、これからライフスタイルが変化していくであろう中で、多くの示唆に富んでいることがわかる。(「ブルーシートハウス」という)家や生活にはその中でも特に考えぬかれたアイデアが詰め込まれていた......。
単行本として発行されたのが2008年。それから4年を経て「文庫化」された本書。単行本が発刊されたときに、手にとってみたいと思いながらもその「機」を失ってしまっていたので、本書(文庫)を店頭で発見したときには即ゲットしました。この本には『お金を払ってただ「買うだけ」の存在になってしまった現在の家と、「都市のゴミ」を材料に自分だけの空間を「自力」でつくろう』とすることへの「棲処」本来のもつ「イミとカタチ」がそこにあるように思いました。どちらがほんとうの「ゴミ」で、ほんとうの「棲処」なのか。また、著者自らも『僕は今、家を建てている。さすがに0円ハウスではできなかったが2万6千円で「二畳間の一戸建て」が完成した。10平米以下であれば実は建築士の免許がなくても誰でも建てることができるという法律を利用している。しかも、車輪が付いているので可動式の「モバイルハウス」である。車輪が付いていれば法規的には建築物ではなく車両になる。ということで、値段が高すぎる宅地なんて無視して、安く借りることができる駐車場におくことができるのだ。この経験を踏まえ、ゆくゆくは市民農園に「畑付きのモバイルハウス」を建てる計画まで立てている。そうすれば「月額1000円ほどで人は家を持てる」ようになる。夢物語のような話だが、それが実現すればホームレスという概念すらなくなるのではないかと僕は思っている。』という「実験(?)」ともいうべき「0円ハウス」を実現させようとしているところに共感をおぼえたのです。

著者である「坂口恭平氏」と「0円ハウス」について、前衛美術家・随筆家・作家の赤瀬川原平氏が「らしい文体」でふれているものがありますので、ここに少し抜粋、ご紹介しておきます。


本書に掲載されている「0円ハウス」のスケッチ
◇◇◇◇◇
はじめは写真集だった。
「0円ハウス」というタイトルの写真集が送られてきた。
ほぼ正方形で、表紙はブルー。
ブルーだけど、全体にキャンバス地のような感じがあって
ちょっと汚れているのでこすってみたが、落ちない。
なんだろうと表紙をめくると、町でよく見かけるホームレス物件写真があった。
あ、よく撮ったなと思った。
(自分も)カメラで撮りたいと思うが、撮りにくい。
撮ったらわるいと思う。
でも撮りたい。
気になる。
だから撮りはしないけれど、横目でじっと見て通っていた。
撮りたくても撮れない禁断の被写体。
と思っていたものが、この写真集にはずらずらと載っている。
ホームはまさにさまざまだ。
きっちり四角にまとめたもの。
あるいは揃えたりせずに
必要に応じてただいろいろ寄せ集めたようなもの。
ベニヤ板を使って、格子入りの窓を造ったのもある。
ブルーシートだけでまとめたもの。
拾った掛時計が、三つも四つも飾ってあるもの。
犬小屋までついていて、犬がちゃんと寝ているものもある。
とにかく見ていて飽きない。
ホームレスというわからないものへの一線を超えて、あっさりとその中へ
ダイビングしている。
たぶん俊敏なフットワークの人なのだろう。
そして何年かたち、また送られてきたのがこの
『TOKYO 0円ハウス 0円生活』
である。
本のはじめの方には写真もいくつかあり、メモ的に描いた図面もあって、
そうか、この人は研究力の人だったんだと納得した。
巻末に顔写真が載っていて、若い。
やはりこういう研究は、エネルギーあってのことだ。
文章は軽快である。
軽快だというのは、とにかく事実が次々と並び、難しげな理屈がいっさい
出てこないこと。
事実や現実というものには、読者は無条件で入っていける。
だから当然話は軽快になってくる。
(しかし、)知っているといってもおそらくみんな横目で見ているだけで
できれば見ないようにしている世界だ。
見てしまったら厄介だという恐れも抱いている。
たぶん政治的にも解決のつかない厄介な問題である。
でもそんなこととは別に、この著者には何よりも強力な好奇心がある。
しかも好奇心に発する研究心がある。
そして行動力。
ただのぞくだけではなくて、その先までもう少し行くような行動力だ。
どうもその行動力こそが、天性のものらしい。
人生のことを考えれば、みんな生きていくために
自分の場所を保守している。
ところがこの著者は、その自分の保守する場所が、はじめから
移動用にできているらしい。
◇◇◇◇◇
「0円ハウス」に棲む
「アルジ」は
このトランスポートで「働き」また、物品をも採取するのだ。


(目次)

はじめに

第1章 総工費0円の家
隅田川のブルーシートハウス/ホームレスにはホームがある/ブルーシートは花火大会で/最高級の調理道具/月収5万円は食費に/鈴木さんとみっちゃんの1日/自転車譲渡証明/東京の遊牧民/総工費は0円!/バッテリーはガソリンスタンドから/隅田川のエジソン

第2章 0円生活の方法
0円生活という冒険/路上の師匠/ドロボウ市に店を出す!?/ゴミの錬金術/「契約」は何軒くらいと?/アルミ缶拾いツアー/仕事はシステマティックに

第3章 ブルーの民家
作り方は民家と同じ/土間の七変化/服はどうやって手に入れる?/一石二鳥三食/少年が一番怖い/日本建築の工法「遊び」/家は壊してまた直す

第4章 建築しない建築
僕の建築原体験/社宅とドブと海/「テント」みたいな建築はないか―石山修武「幻庵」/こんな建築が見たかった―吉阪隆正自邸/常識外れの工務店/建物をもうこれ以上建てるな

第5章 路上の家の調査
多摩川の家と畑と猫/ゴミが転用されて一つの家に/近所の主婦と物々交換?/天然素材とは?/隅田川のソーラーハウスは未来を照らす/広いスペースなんかいらない/直感的=効率的/現代の枯山水/有機分解するソーラーシステム

第6章 理想の家の探求
石山修武研究室/建設中の建物に勝手に住む/飾り立てられた名古屋の家/大阪の変な空間/遊牧生活は可能か/パリ・ロンドン行脚/元祖0円ハウス「シュヴァルの理想宮」/鈴木さんの夢

おわりに

文庫版あとがき

解説 ブルーシートからの生放送   赤瀬川原平


(参考)